極形式は何者?
前の記事で複素数は極形式という別の表記ができることを学びましたが、結局のところ何が嬉しいのでしょうか。
その1つはド・モアブルの定理を使えることですね。これは
で解説している通り累乗の計算を一気に楽にしてくれます。
もう一つは今回学ぶ「極形式によって図形的な回転を表せる」ということです。
回転というと何か物がくるくる回っているイメージを持つと思いますがここでは違います。何を回転させるかというと
点
です。実は極形式を使うことによって点の回転を表現することができます。
何故そんなことができるのか、それを今回はそれを学んでいきましょう。
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複素数の掛け算は回転を表している?
さて、突然ですが次の掛け算はできますか。
\((\sqrt{3}+\mathrm{i})(-1+\sqrt{3}\mathrm{i})\)
バカにしないでくれ、という感じですがまあそう言わず。
\((\sqrt{3}+\mathrm{i})(-1+\sqrt{3}\mathrm{i})=-2\sqrt{3}+2\mathrm{i}\)
になりますね。なんの変哲も無い計算ですが、これを極形式で計算してみるとどうでしょう。
極形式での計算方法についてはこちらで解説しているので忘れてる人は少し戻ってみてください。
こんな計算になるのでしたね。
まずは二つの式を極形式に直して
\(\sqrt{3}+\mathrm{i}=2\left(\cos\left(\frac{\pi}{6}\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{\pi}{6}\right)\right)\)
\(-1+\sqrt{3}\mathrm{i}=2\left(\cos\left(\frac{2}{3}\pi\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{2}{3}\pi\right)\right)\)
ですので、これらの積は
\(2\left(\cos\left(\frac{\pi}{6}\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{\pi}{6}\right)\right)\cdot 2\left(\cos\left(\frac{2}{3}\pi\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{2}{3}\pi\right)\right)=4\left(\cos\left(\frac{\pi}{6}+\frac{2}{3}\pi\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{\pi}{6}+\frac{2}{3}\pi\right)\right)\)
より
\(4\left(\cos\left(\frac{5}{6}\pi\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{5}{6}\pi\right)\right)\)
となります。
絶対値のところは単純に掛け算ですが、角度部分(偏角)は足し算になるのでした。
こんなのやったなあと思う人が多いと思いますが、ここではそれだけでは終わりません。少し見方を変えて、複素数 \((\sqrt{3}+\mathrm{i})\) を中心に考えると
と考えられませんか。つまり
掛け算をすることによって点が動いた
と見れます。もっというと複素数 \(z=r(\cos\theta+\mathrm{i}\sin\theta)\) をかけることは
掛けられる側の複素数の絶対値を \(r\) 倍し、実軸からの角度を \(\theta\) 増やす
のです。これはつまり
複素数をかけること \(=\) 元々あった複素数を表す点を別の点に移すこと
であることを言っています。
何倍するか、どれくらい回転するかはかける複素数を極形式の形にすればわかるのです。
この事実は極形式を知っているからこそわかることです。ではこの回転と定数倍をうまく使って複素数を自在に操ってみましょう。
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複素数を自在に動かしてみる
では例えば複素数 \(\alpha\) を考えてこれを \(\theta\) だけ回転させたら複素数 \(\beta\) になったとします。
これは図で書くと
となりますが、式で書くとどうなりますか。
すでに私たちは複素数を回転をさせる方法を知っています。回転させるにはその複素数に複素数をかければいいんですよね。
さらにいえば今回はシータだけ回転させたいので絶対値である \(r\) は \(1\) 、角度 \(\theta\) だけ回転させたいので偏角を \(\theta\) とした
\(1\cdot(\cos\theta+\mathrm{i}\sin\theta)=(\cos\theta+\mathrm{i}\sin\theta)\)
をかければ複素数を \(\theta\) だけ回転することができます。よって \(\alpha\ ,\ \beta\) を使って式で書くと
\(\beta=\alpha \times (\cos\theta+\mathrm{i}\sin\theta)\)
になりますね。これが教科書によく載っている回転の公式というやつです。極形式と回転のイメージができていればなんてことはないですよね。
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回転は複素数の周りでもできる?
さて、これまで回転は当たり前に「原点」を中心にしていました。コンパスでいうと必ず針の部分を原点にして、ある複素数を回していたことになります。
ですが実はこれは一般的ではありません。もっと使える回転の式を考えることができます。
状況としては次の図のようなことを考えます。
これは
複素数 \(\alpha\) を中心にして複素数 \(\beta\) を \(\theta\) 回転させると \(\gamma\) になる
という状況を表しています。もちろん複素数が3つあると言ってしまえばそれまでですがこれまでの知識を活かすと上のような表現ができますね。
さて、これはどうしましょうか。私たちは原点周りであれば複素数を回転させることができますがある点の周りなんてことはやったことがありません。
ならば原点に移しましょう。 \(\alpha\) を中心に \(\beta\) を回転させるのではなく
このように一旦 \(\alpha\) を原点に持ってきてやるのです。持ってくると \(\beta\) はもちろん \(\beta -\alpha\) になりますね。これなら私たちは
\(\beta -\alpha\) を原点周りで \(\theta\) だけ回転させる
ことができます。実際に複素数の式で書けば
\((\beta -\alpha)(\cos\theta+\mathrm{i}\sin\theta)\)
ですね。これが回転させた後の式です。 \(\gamma\) にするには原点に持ってきてしまった分戻せばいいので、\(\alpha\) だけ足せばいいですね。
つまりガンマは
\(\gamma=(\beta -\alpha)(\cos\theta+\mathrm{i}\sin\theta)+\alpha\)
になります。これが \(\beta\) を \(\alpha\) を中心に \(\theta\) 回転させたあとの複素数の値です。
とこんな風に言われてもよくわからないので一つ実際にやってみましょう。
最初のうちは必ず図を描くことをオススメします。どこが何に対応しているのかを複素数平面でイメージできないと何をしているかわからなくなってしまいますからね。
今欲しい複素数は
のあたりにあるはずです。必ず自分で実際に書いてみてください。これは先程考えていたある点を中心に複素数を回転するという状況と全く同じですね。
\(\alpha\) にあたるのが複素数 \(2-\sqrt{3}\mathrm{i}\) 、 \(\beta\) にあたるのが複素数 \(6+\sqrt{3}\mathrm{i}\) で、求める複素数が \(\gamma\) です。
ここまでくればあとは公式に当てはめるだけですね。なぜこの式になったかをイメージしながら書いてください。
\(\gamma=\left\{(6+\sqrt{3}\mathrm{i})-(2-\sqrt{3}\mathrm{i})\right\}\left(\cos\left(\frac{\pi}{3}\right)+\mathrm{i}\sin\left(\frac{\pi}{3}\right)\right)+(2-\sqrt{3}\mathrm{i})\)
あとは解くだけ。基本は三角関数を値に戻して計算でしょう。
\(\gamma=(4+2\sqrt{3}\mathrm{i})\left(\frac{1}{2}+\frac{\sqrt{3}}{2}\mathrm{i}\right)+(2-\sqrt{3}\mathrm{i})=2+2\sqrt{3}\mathrm{i}+\sqrt{3}\mathrm{i}-3+2-\sqrt{3}\mathrm{i}=1+2\sqrt{3}\mathrm{i}\)
よって回転後の複素数は
\(1+2\sqrt{3}\mathrm{i}\)
であることがわかりました。たしかに図に書いても予想したところのあたりに来ています。これで原点が中心じゃなくても複素数を回転させることができるようになりました。
まとめ
今回やった複素数の回転は今後に続く複素数の図形的な解析に必ず必要です。今後はこの知識を使って、今考えている複素数がどんな場所にいてどのような図形を作り出しているのか、また関係性はどうなのかを調べることになります。
ではまた。
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