積分の微分
積分を微分したら元に戻るんじゃないの?
そう思った人はその通りです。微分の逆として考えたのが積分でしたものね。
ですが今扱いたいのは「定積分」の「微分」です。定積分は面積と関わりがありましたがこれを微分したら何が起こるのでしょうか。
単純に考えると面積を微分しても何も起きません。例えば
\(\int_{1}^{2}(2x+3)dx\)
という定積分を考えると、これは
\(\int_{1}^{2}(2x+3)dx=\left[x^2+3x\right]_{1}^{2}=(4+6)-(1+3)=6\)
です。これを \(x\) で微分しても
\(0\)
当たり前ですが定数を微分しても \(0\) です。これでは「定積分を微分したら \(0\) 」という結果だけ出てきます。なんの面白みもありませんね。
ですがもちろんこれだけではありません。今考えたいのは次のような定積分です。
\(\int_{1}^{x}(2t+3)dt\)
何かいつもと違いますね。一つは積分する式が \(t\) になっていること。もう一つは積分範囲に \(x\) が入っていることです。
これは実際に計算してみるとどんな式になるのか、やってみましょう。
いつもと違うからって変なことをしなくて大丈夫です。いつも通り積分します。
\(\int_{1}^{x}(2t+3)dt=\left[t^2+3t\right]_{1}^{x}\)
\(t\) になっても大丈夫。いつもの \(x\) だと思ってください。あとは積分範囲を入れてあげれば
\(\int_{1}^{x}(2t+3)dt=\left[t^2+3t\right]_{1}^{x}=(x^2+3x)-(1+3)=x^2+3x-4\)
ですね。あれ、不思議ですね。定積分をしたはずなのに、 \(x\) の式が出てきました。これを微分するとどうなりますか。もちろん \(x\) で微分です。
\(\frac{d}{dx}(x^2+3x-4)=2x+3\)
((\(\frac{d}{dx}\) は 「\(x\) で微分してください」という記号です)
なんか見たことありませんかこの式。
そうです。積分する前の \(t\) の式そのものですよね。
\(\frac{d}{dx}\int_{1}^{x}(2t+3)dt=\cdots=2x+3\)
これは揺るぎない事実です。そしてこれは公式として教科書等にこのように載っています。
\(\frac{d}{dx}\int_{a}^{x}f(t)dt=f(x)\)
ただし \(a\) は定数
これの意味は
積分範囲に \(x\) が入っている定積分を \(x\) で微分したら積分の中身を \(x\) に変えた式が出てきます
ということです。言葉にするとごちゃごちゃしますが言いたいことはそういうことです。
先程地道に計算した式も
\(\frac{d}{dx}\int_{1}^{x}(2t+3)dt\)
を計算することと同じですから公式を使えばすぐに
\(\frac{d}{dx}\int_{1}^{x}(2t+3)dt=2x+3\)
とできると言っているのです。
なんかすごいことを言っている気もしますが、実はこれはやる前からわかっていたことでもあります。それを証明しましょう。
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定積分の微分の証明
さて、今考えている定積分は次のような定積分です。
\(\int_{a}^{x}f(t)dt\)
一応断っておきますが積分する式の文字はなんでも構いません。今はよくある表記に合わせて \(t\) にしていますが、具体的に言うと
\(\int_{a}^{x}(2z^2+3z)dz\)
とか
\(\int_{a}^{x}(4p^3+5p+3)dp\)
でもOKということです。
話を戻します。この積分をするには \(f(t)\) を積分した式が何かを知らなくてはなりませんが今はよくわからないのでそれを
\(F(t)\)
とおきましょう。つまり2つの式はこんな関係です。
この積分した後の式 \(F(t)\) を
原始関数
というのでしたね。ひとまずこの原始関数を使って話を進めます。積分を実際に実行すると
\(\int_{a}^{x}f(t)dt=\left[F(t)\right]_{a}^{x}\)
になりますね。もちろん定積分なので積分範囲の端っこの値を入れて差を取るので
\(\int_{a}^{x}f(t)dt=\left[F(t)\right]_{a}^{x}=F(x)-F(a)\)
です。いつも計算している積分そのままですね。
気をつけたいのは答えの形です。\(F(x)\) はもちろん \(F(t)\) の \(t\) を \(x\) に変えた式なので、 \(x\) の入った式です。 \(a\) が定数なので \(F(a)\) は定数になります。
ではこの式を \(x\) で微分してみましょう。注意は先程行った「それぞれがどんな式か」ですね。
\(\frac{d}{dx}\int_{a}^{x}f(t)dt=\frac{d}{dx}\left(F(x)-F(a)\right)=\frac{d}{dx}F(x)\)
となることがわかりますでしょうか。定数は微分すると \(0\) なのでなくなりますが、 \(F(x)\) はもちろん \(x\) の式なので \(x\) で微分できます。ここで \(\frac{d}{dx}F(x)\) は
\(\frac{d}{dx}F(x)=f(x)\)
ですね。先ほど見せた図を思い出してください。\(f(x)\) を積分したら \(F(x)\) だったのですから逆に微分したら元に戻ります。
ということは
\(\frac{d}{dx}\int_{a}^{x}f(t)dt=f(x)\)
という結論が得られるのです。これがまさに私が一番最初に言っていた
積分範囲に \(x\) が入っている定積分を \(x\) で微分したら積分の中身を \(x\) に変えた式が出てきます
ということの意味だったのです。
補足
積分範囲に \(2x\) などの \(x\) 以外の式が入った場合にはこの公式は使えません。
数学Ⅱの範囲でそのような問題が出てくることがあまりないのですが、受験勉強以外などでこの公式を使う際には注意が必要です。
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問題を解く時の注意
さて、かなり便利な公式を得られた気がしますので実際に使ってみたくなりますね。少し問題をやって注意とともに解説してみます。
次の計算をせよ。
(1) \(\frac{d}{dx}\int_{1}^{x}(3t^2+2t+4)dt\)
(2) \(\frac{d}{dx}\int_{x}^{4}(3p^3+5p^2+6)dp\)
(1)はなんてことありません。公式そのまんまですね。もちろん使えるか確認をします。
まず定積分の積分範囲が
\(1\ \rightarrow \ x\)
になっています。これはまさしく公式にあるように
積分範囲が定数から \(x\)
です。積分の中身はなんでもいいんでしたね。これを \(x\) で微分するので
\(\frac{d}{dx}\int_{1}^{x}(3t^2+2t+4)dt=3x^2+2x+4\)
とできます。不安になった人、いますか。もしいれば実際に積分を実行して微分しても同じ答えになるはずなので最初だけやってみますね。
\(\int_{1}^{x}(3t^2+2t+4)dt=\left[t^3+t^2+4t\right]_{1}^{x}\)
より計算すれば
\(\int_{1}^{x}(3t^2+2t+4)dt=\left[t^3+t^2+4t\right]_{1}^{x}=x^3+x^2+4x-(1+1+4)=x^3+x^2+4x-6\)
ですね。これを \(x\) で微分すれば
\(\frac{d}{dx}(x^3+x^2+4x-6)=3x^2+2x+4\)
なのでちゃんと一気に出した答えと等しいです。これで安心して公式を使えますかね。
(2)は積分範囲に注意です。これはいつもの形ではありません。定数と \(x\) が逆ですね。このままだともちろん公式を使えません。
\(\frac{d}{dx}\int_{x}^{4}(3p^3+5p^2+6)dp=3x^3+5x^2+6\)
とは絶対にしないでくださいね。これを打開するには積分の性質
\(\int_{a}^{b}f(x)dx=-\int_{b}^{a}f(x)dx\)
を使いましょう。積分範囲を逆にすると符号が逆になるのでした。これを使えば
\(\frac{d}{dx}\int_{x}^{4}(3p^3+5p^2+6)dp=-\frac{d}{dx}\int_{4}^{x}(3p^3+5p^2+6)dp\)
より \(p\) の式になっていることには惑わされずに、公式から
\(-\frac{d}{dx}\int_{4}^{x}(3p^3+5p^2+6)dp=-(3x^3+5x^2+6)=-3x^3-5x^2-6\)
になります。自分の知っている形でなければ何とかしてその形に持っていく。これは数学でよくあることなので覚えておきましょう。
まとめ
積分の範囲の中でも面積ではないのであまり出てこない、しかし忘れた時にやってくる定積分の微分を今回は扱いました。やってることは難しくないはずなのですが、皆さん見た目で「無理」となっているのでもったいないです。極論は実際に計算してみるです(笑)。地道に計算すれば答えはわかるのであきらめずに取り組んでみてください。もちろん公式を知って「使いこなす」ことも重要なので「頑張って計算」とはどこかでおさらばするべきです。
ではまた。
コメント
積分範囲が0→2xやx→0のように積分範囲の始めや後がxでなかったりはじめがxだった場合に微分しても、このようにはならないことを注意しましょう。
コメントありがとうございます!そしてこのサイトを見てくださりありがとうございます!管理人のダ・ヴィンチです。
的確なコメントありがとうございます!先の「積分範囲が 0→2x などの範囲にx以外の関数が入っている場合」に関してはその通りで、その場合にはより一般的な公式が必要になりますね。「補足」として記事内に入れさせていただきました。
後者に関しては例題にて解説はしているのですが、再度ここで確認をさせていただいたこと感謝しております!気になるところがありましたらどんどんコメントいただくと幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
大学の確率論を学んでいて、密度関数と分布関数の関係を調べているときに本サイトを見つけました。高校のときに学んだ微分と積分の関係がすぐに理解できなかったのですが、本サイトですっきりわかりました。数学に限らないですが学んだときに使いみちがわからず、積み重ねを怠ると後でハマりますね。
コメントありがとうございます!
本サイトを見ていただき、疑問が解消されたということ大変嬉しく思います。書いてよかったと思える瞬間です。
管理人である私は高校時代に数学が好きで自学していましたが、大学に入ってから数学を教える機会が多くなりそこでより深く学んだ経験があります。
おっしゃる通り積み重ねはどの学問においても大事で、初めての時でも「理解しようと努める」(その時点では完璧に分からなくても良いと思っています)かどうかがその後の学習に大きな影響を与えそうです。
今後とも当サイトをよろしくお願いいたします!!
da Vinch
一瞬で理解できました!あざす。
コメントありがとうございます!!
理解のお手伝いができたようで非常にうれしいです!!
弊サイトがこれからもひとひとふたまる様のお役に立てれば管理人としてそれ以上の喜びはありません!
これからもお気軽にコメントください!引き続き高校数学の知識庫をよろしくお願いします!!
da Vinch
文字の一部が消えてますよ(かなりの箇所)
太郎 様
ご返信が大変遅れ誠に申し訳ございません・・・!
ご指摘大変助かります、ありがとうございます!!
こちら私の方で確認いたしましたが、私の環境では再現することができませんでした・・・
もしかすると見ていただいている環境によっては、文字が消えてしまっている等の不具合が出てしまうのかもしれません。
なるべく多くの環境できちんと見ていただけるよう改善してまいりますので、
至らぬ点も多々ございますが、引き続き当サイトをよろしくお願いいたします!
da Vinch