極限値が2つ?アプローチの仕方で極限値が変わる関数の極限
私たちはこれまで極限を考えるときに単純に
その値に近づける
ことをしてきました。例えば前回の例
で言えば
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}\)
のような極限は値を入れてみてもすぐにわかりますが、グラフで考えれば
のように 0 に近づければどんどんと値が大きくなっていくことが明らかです。ですので簡単に
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}=\infty\)
のように極限値が求められたのでした。
ではこんな関数の極限を考えてみるとどうでしょう。
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2x}{|x|}\)
何やら不穏な記号が・・・。そうです絶対値です。ただし絶対値は外してしまえばこちらのものですから、しっかりと場合わけして計算を続けてみましょう。
ちなみに、単純に値を代入してもダメです。
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2x}{|x|}=\frac{0+2}{0}\)
そもそも不定形ですよね。というわけで絶対値を外します。外し方は大丈夫ですね。
・中身がプラスであればそのまま \(|x| = x \ (x\geqq 0)\)
・中身がマイナスであればマイナスをつけて外す \(|x| = -x \ (x<0)\)
でしたから、今回の関数は
\(x > 0\) のとき
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2x}{|x|}=\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2x}{x}=\lim_{x\to 0}\frac{x(x+2)}{x}=\lim_{x\to 0}(x+2)\)
\(x < 0\) のとき
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2x}{|x|}=\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2x}{-x}=\lim_{x\to 0}\frac{x(x+2)}{-x}=\lim_{x\to 0}(-x-2)\)
と計算できます。絶対値を外せば、今までやってきたものと同じです。今回は因数分解できるので不定形を避けることができますね。(\(x\) が \(0\) のときは考えません。近づけるだけなので \(x=0\) 自身は考えなくても良いからです。)
つまりこの関数の正体は \(x\) の値によって式が違う関数なのですね。
ん?待ってください。僕たちはこれから極限計算をするわけですが、この関数の極限値はどうなるのでしょうか。だって
\(x>0\) のときは
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}(x+2)\)
より
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}(x+2)=2\)
ですが \(x<0\) のときは
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}(-x-2)\)
より
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}(-x-2)=-2\)
となります。なんと極限値が一つに定まらないという事態に陥ってしまいました。これは由々しき事態です。なぜなら \(x\) をある値に近づけたのに全く違う極限値に向かっていることになるのです。これまでの計算は間違っているのでしょうか。
実はこれは間違いではありません。極限値が2つあることは自然なのです。
それはグラフを書けばわかります。この関数
\(\displaystyle y=\frac{x^{2}+2}{|x|}\)
を実際に書いてみましょう。 先ほどの計算で確認しましたが、\(x>0\) の範囲では直線
\(\displaystyle y=\frac{x^{2}+2}{|x|}=\frac{x^{2}+2}{x}=x+2\)
で \(x<0\) の範囲では直線
\(\displaystyle y=\frac{x^{2}+2}{|x|}=\frac{x^{2}+2}{-x}=-x-2\)
なのでグラフは \(x>0\) と \(x<0\) のそれぞれで書けばいいので
のようになります。一番重要なのは \(x=0\) でグラフが繋がっていないことです。
では先ほどの極限計算と比べてみるとそれぞれどんなふうに極限を考えたと言えるでしょうか。
\(x>0\) の時
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2}{x}=\lim_{x\to 0}(x+2)\)
でしたが、計算結果は \(2\) でした。つまり
のように \(x\) を \(0\) に近づけていったことに対応しそうですね。そもそもこの時考えている \(x\) の範囲は \(x>0\) ですから \(x\) が大きい方から \(0\) に近づけていったことになります。
一方で
\(x>0\) の時
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2}{-x}=\lim_{x\to 0}(-x-2)=-2\)
でしたが、同じように考えれば
のように小さい方から \(0\) に近づけていったことと対応しそうです。そうすれば極限計算の結果ともバッチリ合います。これも考えている \(x\) の範囲がそもそも \(x<0\) であるので当然のように思います。
では結局のところこの極限計算
\(x>0\) のとき
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2}{|x|}=\lim_{x\to 0}(x+2)=2\)
\(x<0\) のとき
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x^{2}+2}{|x|}=\lim_{x\to 0}(-x-2)=-2\)
はどう表せばいいのでしょうか。普通に計算しようとすると2つの極限値を計算できてしまいますからね。
ここで新しい極限についてのルールを決めます。この2つの極限計算を区別するために、極限をとるときは「どちらから」極限を取るかを記号で表すことにしましょう。そうすればこの2つの極限計算を区別することができますね。
それはどうするかというと、極限を取る \(x\) の値 \(a\) について
\(a\) より大きい値から \(a\) に近づけて極限を考えるとき
\(\displaystyle\lim_{x\to a+0}\)
\(a\) より小さい値から \(a\) に近づけて極限を考えるとき
\(\displaystyle\lim_{x\to a-0}\)
とします。具体的には例えば
\(\displaystyle \lim_{x\to 1-0}\frac{x^2-1}{|x-1|}\)
のように書きます。これは「\(1\) にマイナスの方から近づけなさい」ということを表すことにするわけです。
ただ、先ほど考えた \(0\) への極限だと少し書き方が特殊で
\(\displaystyle\lim_{x\to +0}\frac{x^{2}+2}{|x|}\)
のように書くことにします。そうするとこの極限は \(0\) より大きい方から極限を取ることになるので、先ほど考えた計算やグラフ
から
\(\displaystyle\lim_{x\to +0}\frac{x^{2}+2}{|x|}=\lim_{x\to +0}\frac{x^{2}+2}{x}=\lim_{x\to +0}(x+2)=2\)
と計算することになるのです。これなら極限計算を進めて計算結果を出すことができます。
ですので
\(\displaystyle\lim_{x\to -0}\frac{x^{2}+2}{|x|}\)
と言われたらもちろん同じように考えれば
\(\displaystyle\lim_{x\to -0}\frac{x^{2}+2}{|x|}=\lim_{x\to -0}\frac{x^{2}+2}{-x}=\lim_{x\to -0}(-x-2)=-2\)
と計算することになるわけですね。
このように極限を取る値 \(a\) よりも値が大きい方・小さい方から極限を取ることを
片側極限をとる
と言います。新しい極限の用語ですが、やることは変わりないので混乱しないようにしてくださいね
全ての関数で片側極限をとらなくてはならないの?
さて、片側極限を学ぶとこんなことを考えたくなります。
これから先はすべての「関数の極限の問題」を片側極限で計算するのか?
と。確かにそう思いたくなるのですが、やってみると全てそうじゃなくても良いことがわかります。
例として前回の記事で出てきた
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}\)
を考えてみましょう。これは
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}=\infty\)
と結論づけたわけですが、片側極限で考えるとどうでしょうか。
つまり
\(\displaystyle\lim_{x\to +0}\frac{1}{x^2}\)
と
\(\displaystyle\lim_{x\to -0}\frac{1}{x^2}\)
を計算するとどうなるかを考えることになります。実はこれはとても簡単で、グラフを見れば一発です。
このグラフをみると \(x\) を \(0\) より大きい方から近づけても、\(0\) より小さい方から近づけても結局は無限大ですね。
ですので片側極限を考える必要はなくて単純に
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}\)
と書いてよく、計算結果は
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}=\infty\)
になります。このようにどちらの極限からとっても同じ極限値になる(無限大は「極限値」とはいいませんが)ときは単純に
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}\)
と書いて良いです。まあ考える意味がないので当然と言えば当然ですが、後々微分のところで役に立つ知識になりますので覚えておくと良いですよ。
まとめ
今回学んだ片側極限は一見すると難しく見えますが、単純に極限の取り方を2種類考えただけです。ここで重要なのはこの片側極限を考える上で、グラフが非常に有効であることです。どちらの例もグラフを書くことができればすぐに答えがわかりましたよね。グラフと極限は切っても切り離せない関係ですので、復習は確実に行いましょう!
ではまた。
コメント
片側極限についての理解が深まりました。ありがとうございます。
ところで絶対値のついた関数の因数分解についてなんですが、分子はx^2+2ではなくx^2+2xではないでしょうか。
あと、細かいとは思いますが片側極限の「aより小さい値からaに近づけて極限を考えるとき」のlimの下はx→-aではないでしょうか。(間違えていたら申し訳ないです)
スワン様
コメントありがとうございます。管理人のda Vinch です。
そして本サイトを見てくださり大変ありがとうございます。理解が深まったということで執筆者としてとても嬉しいです。
指摘していただいた件ですが、その通りでございます。こちらのミスでご迷惑をおかけしました。
当該箇所は修正させていただきましたのでご確認いただけると幸いです。
もし何かありましたらまた気軽にコメント、またはお問い合わせいただければと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
da Vinch
aより小さい値からaに近づける時はlimの下は「a-0」では無いでしょうか。-aはシンプルに「-a」に近づくものと言うだけで大小どちらから近づけてるのか不明ではないでしょうか?私もまだ習ったばかりなので違ったらごめんなさい!
コメント・ご指摘ありがとうございます! 管理人の da Vinch です!
まさしくその通りです!!誤解を与えてしまってすみません・・・
訂正しましたのでご確認いただけると幸いです!!
また気づいた点があればお気軽にコメントいただければと思います!!
今後とも当サイトをどうぞよろしくお願いいたします!!
da Vinch