極限計算の最終手段「はさみうちの原理」
ここまでで皆さんは多くの極限計算ができるようになりました。
常に考えることは
不定形を避ける
でしたよね。この不定形が出てきた時に私たちは
「変形」・「置き換え」
などを使って乗り切ってきたのでした。
ここでは少し趣向を変えて、極限計算を別の視点から見てみましょう。
私たちにとってなじみ深いこの極限
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0\)
は今や当たり前の式になっていますが、最初どう考えたかというと
\(\displaystyle \frac{1}{1}\ ,\ \frac{1}{2}\ ,\ \frac{1}{3}\ ,\ \frac{1}{4}\,\ \cdots\)
このようにどんどんと \(n\) を大きくしていくと数列の値自体は小さくなっていくので、最終的に \(n\) がものすごく大きくなった時には
\(0\)
となることがわかるので結局
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0\)
と導いたのでした。では
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}\)
の極限は?と聞かれても同じように考えれば
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}=0\)
であることが予想されます。ですがせっかく
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0\)
であることは納得したのでこれを使って欲しい極限を求めることはできないでしょうか?あくまで
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0\)
だけがわかっているとして、
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}=0\)
の極限を間接的に求めたいわけです。
一見無駄なように思えますが、
「ある極限から別の極限を求める」
という方法を知れば
新しい不定形を避ける手段が増える
わけなのでものすごく重要です。もっというとこれじゃなきゃ解けない問題がこのあと出てきてしまいます。
では早速。数列の極限を考えるので \(n\) は常に自然数です。ですから次の不等式が常に成り立ちます。
\(\displaystyle 0<\frac{1}{n^2}<\frac{1}{n}\)
いいですよね? \(\displaystyle \frac{1}{n^2}\) は \(n\) が自然数であれば必ずプラス(正)です。加えて\(\displaystyle \frac{1}{n}\) よりも必ず \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\)の方が小さくなります。分母が常に \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) の方が大きいからです。
ただし \(n=1\) の時は
\(\displaystyle \frac{1}{n}=1\ ,\ \frac{1}{n^2}=1\)
ですので \(n=1\) の時は等しいですね。よって不等式は
\(\displaystyle 0<\frac{1}{n^2}\leqq\frac{1}{n}\)
となります。
ではさっそく \(n\) が無限に大きくなったときの不等式はどうなるでしょうか?考える不等式は
\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}0<\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}\leqq\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\)
なります。もちろん \(0\) は常に \(0\) です。\(n\) が含まれていませんので。
また
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}\)
はこれから求めるのでそのまま。
では \(\displaystyle\frac{1}{n}\) は?これは先ほどの考察から
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0\)
ですよね。ということは
\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}0<\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}\leqq\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\)
という不等式は
\(\displaystyle 0<\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}\leqq 0\)
になります。これを見るとなるほど、
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}\)
は
\(0\)より大きくて \(0\) 以下である
ということになるわけです。つまり
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n^2}=0\)
とできますよね。これが間接的に極限を求めるという意味です。
下限と上限で挟んでしまって極限を求めることからこの方法は
はさみうちの原理
と呼ばれます。やりたいことは
求めたい極限を求めずに、わかっている極限で挟んで間接的に極限を求めてしまおう
ということですね。ただし一つ注意は、もちろんこの方法で極限を求めることができるのは
「下(不等式の下限)と上(不等式の上限)の極限が同じ」
時です。適当に不等式を作ってもできるわけではありません、
今の例だとあまりこの原理の有用性がわからないかも知れませんが、この後に挙げる例はこの「はさみうちの原理」がないと極限が求められないものになっています。しっかりと追ってみてください。
やってることは単純です。
正しい不等式を作って極限を取る
これに尽きます。
いったん広告の時間です。
<例①>三角関数の極限をはさみうちの原理で考える。
ここからははさみうちの原理の威力を存分に感じてもらいます。まずは三角関数の極限です。
今まで全く三角関数の極限が出てこなかったのは、普通に極限をとっても求められないからです。ここで初めて溶ける問題が出てきます。
問題はこちら
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<例②>「振動する数列」の極限をはさみうちの原理で考える。
例題はこちら
この例も例①と同じように解くことができるタイプの問題です。特徴としてはやはり
\((-1)^{n}\)
この部分ですね。これは \(n\) を大きくしていっても
\((-1)^{1}=-1\ ,\ (-1)-{2}=1\ ,\ (-1)^{3}=-1\ ,\ \cdots\)
となり、これは懐かしの「振動する」数列です。ですから無限大にしても結局 \(1\) か \(-1\) になり値が決まりません。
こう言う時もやはり登場するのは「はさみうちの原理」です。今確認しましたが、 \((-1)^{n}\) は振動すると言っても必ずある値の間を行ったり来たりします。
これはまさに不等式を作るにはもってこいの状態ですよね。つまり
\(-1\leqq(-1)^{n}\leqq 1\)
と表現できそうです。必ず \(1\) と \(-1\) の間を行き来するのですから。ここまで来れば解けてしまいそうですね。もちろん \(2n+1\) は常に正の数ですし、\(0\) も含まないので
\(\displaystyle -\frac{1}{2n+1}\leqq\frac{(-1)^{n}}{2n+1}\leqq \frac{1}{2n+1}\)
より極限を取れば
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}-\frac{1}{2n+1}\leqq\lim_{n\to\infty}\frac{(-1)^{n}}{2n+1}\leqq\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2n+1}\)
です。もちろん
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}-\frac{1}{2n+1}=0\ ,\ \lim_{n\to\infty}\frac{1}{2n+1}=0\)
なので
\(\displaystyle 0\leqq\lim_{n\to\infty}\frac{(-1)^{n}}{2n+1}\leqq 0\)
より
\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}\frac{(-1)^{n}}{2n+1}=0\)
ですね。不等式さえ作ってしまえばこちらのものです。
まとめ
今回ははさみうちの原理を学習しました。数列の極限は基本的に解けるものの方が少ないですが、このはさみうちの原理があるとかなり問題の幅が広がります。必ず解く前には不定形やそのままだと解けないことを確認してから使いましょう。このはさみうちの原理は「最終手段」として使ってください。まずは今まで学習してきた不定形を避ける方法を使うことが重要です。
ではまた。
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